【神戸大学時代】神戸大学脊椎グループ【院長の人生ノート43】

2023年4月、神戸大学整形外科に入局し脊椎グループの一員として大学病院で働き始めました。神戸医学部附属病院は神戸市中央区にある総合病院で、1869年設立の神戸病院を前身とする日本でも屈指の歴史のある病院です。私にとっても約22年ぶりの関西での生活、初めての電車通勤など、新鮮な気持ちで新生活が始まることになりました。
神戸大学脊椎グループは、私が働き始めた時にはチーフの角谷賢一朗先生を筆頭に由留部崇先生、武岡由樹先生、宮崎邦彦先生と私の5名で診療に当たっておりました(2025年7月現在、宮崎先生は留学し神田裕太郎先生が所属しています)。北海道大学で脊椎手術を学んできた私にとって、神戸大学の脊椎手術も非常に受け入れやすいものでした。神戸大学でも基本的にはオープンでの脊椎除圧と脊椎固定をベースとした手術を行っており、多少の違いはあるものの神戸大学方式での手術もすぐに取り入れることができました。
神戸大学にきて最も驚いたのが医局行事の多さです。北大やその関連病院では、医局の公式な行事は年1回の同門会と忘年会、そして歓迎会と送別会くらいでした。神戸大学では医局旅行や普段の飲み会、研究会など参加行事の多さにびっくりしました。同じ整形外科とはいえ、所変われば文化が違うのだと認識することができました。
神戸大学医学部附属病院での脊椎外科診療では、腫瘍や脊柱変形などの大学ならでは重症疾患の治療も多く経験できました。特に、私は今まで市中の病院勤務が中心であったこともあり、あまり脊椎腫瘍の治療は行っていなかったため、数多くの手術症例を経験できたこととは大きな財産です。

また、神戸大学は大学ならではの基礎研究も盛んに行っています。脊椎以外にもスポーツ、人工関節、上肢、腫瘍、外傷などのグループが、それぞれの分野で積極的に基礎研究を行っています。脊椎グループは、由留部先生、武岡先生を中心に椎間板の基礎研究の結果を数多く発信しております。
私は大学院を卒業後は基礎研究については全く行っていませんでしたが、大学に所属している以上、科研費(日本の文部科学省および日本学術振興会が研究者に対して提供する、基礎的な学術研究を支援するための競争的研究資金)などの研究資金の応募をしなければなりません。そこで、私は「水素吸入」について着目しました。
水素吸入について着目した理由としては、他の先生の患者さんで抗がん剤の効果がなかった患者さんが水素吸入を行うことで転移した腫瘍が縮小したという話を聞いたことです。実際にその話を聞いた時には、率直に申し上げると‘かなり怪しい話’というのが正直な感想でした。ただ、調べてみると、「水素吸入」というのは世界中の研究機関で研究されているテーマであることが分かりました。
確かに水素と近い酸素については、高圧酸素療法などが頚髄損傷後の患者や頚髄症に対する保険診療として国から認められています。水素吸入も高圧酸素と同様に活性酸素の賦活化やオートファジーという体内の自浄作用を活性化する働きがあるということだったので、もしかしたら脊椎疾患に対する研究テーマになるのではないかと考えたのです。
そこで科研費に応募したところ、研究費が割り当てられたので水素研究を開始することになりました。内容としては頚椎疾患である頚椎症性脊髄症のモデルラットを作製して、水素吸入を行い評価するというものです。私自身は自分で実験する時間は中々とれないとため、大学院生の中川先生が実験を行ってくれることになります。
ただ、基礎研究にはつきものではありますが、いざ実験を始めると頚椎症性脊髄症のモデルラットの作製が中々うまくいきません。原因としては、過去の研究で使用していた脊髄圧迫用材料が製造中止になっており、他の代替品が見つからずモデル作製に苦慮しております。まだまだこれから試行錯誤してやっていかなければならない課題です。



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