発育性股関節形成不全
原因
先天性または生まれた時やその後に、何らかの理由で大腿骨頭が脱臼している状態です。(以前は先天性股関節脱臼と呼ばれていましたが、生まれつきとは限らないため、「発育性股関節形成不全」と呼ぶようになっています。)
発育性股関節形成不全の原因は複雑で、正確な病因はまだわかっていません。複数の原因が重なっているため特定は難しいですが、現在は遺伝、環境、物理的な要因していると考えられています。
- 遺伝的要因:
親や兄弟姉妹に発育性股関節形成不全の人がいると、発症の可能性が高まります。遺伝子の変異が股関節の発育に影響を及ぼしているのが原因として考えられています。 - 子宮内の圧迫:
胎児が子宮内で股関節に十分なスペースを持たない場合、股関節の正常な発育が妨げられる可能性があります。子宮内の圧迫が起こる例は、在胎不当過大、羊水過少、双子などです。 - 姿勢の異常:
胎内にいるときの姿勢が異常だと、股関節の正常な発育に悪影響を及ぼす可能性があります。足を長時間曲げたままになる状態がとくに問題で、逆子の期間をなるべく短くした方が良いと言われています。また、出生後のおくるみの巻き方も重要視されています。 - 性別:
発育性股関節形成不全の発症には性別差があり、女児では男児の4倍発生しやすいです。女児は、女性ホルモンの影響で靱帯が緩む結果だと言われています。
症状
発育性股関節形成不全とは、主に新生児期の股関節不安定症から寛骨臼や大腿骨の形成不全、股関節亜脱臼、股関節脱臼に至るまで、さまざまな股関節の問題を指す複雑な疾患です。股関節の奥深くにある大腿骨の頭が、骨盤の一部である寛骨臼に適切に収まらない状態をいいます。症状は次の通りです。
- 股関節の不安定性:
股関節が正常に発達しないため不安定になり、股関節が容易に外れやすい状態になります。新生児や乳幼児で股関節が緩んでいる場合は、将来的な股関節の問題の原因となることが多いです。 - 股関節の動きの制限:
ももを前方へ持ち上げる動き(屈曲)、ももの骨を外側にねじる動き(外旋)が制限される例が多く、乳幼児期に特に目立って見られます。 - 歩行時の異常:
股関節の不安定性や痛みによって、歩行時の異常(片足に重心をかけた不自然な歩き方)が見られます。 - 足の長さの不均一:
股関節の一方が他方よりも発達していない、または股関節が適切に位置していないために起きます。 - 足の異常な位置:
「片足が外側に回転する」「両足が互いに対して異なる方向を向く」などの場合があります。 - 乳幼児期に、特定の動作や足の向きで泣く:
股関節の不快感や痛みによるもので、とくにおむつ替え時の足の動かし方で泣くケースが多くみられます。
ただし、乳幼児のころに症状が出ることが少なく、症状も分かりにくいため、歩き出して腰や体を曲げるような歩き方で分かることもあります。また、脱臼ほどの重症ではなくても、臼蓋が浅いことで股関節に痛みが出たりすることがあります。
診断
太ももやお尻のしわが左右非対称、下肢の長さに左右差があることが診断の参考になります。
レントゲン検査では、股関節を正面から撮影してShenton線とCalve線という補助線を用いて診断します。どちらも正常な場合は、途切れることなく滑らかな曲線を描くことができますが、発育性股関節不全の場合は、この曲線が乱れます。
新生児に対しては、侵襲の少ない超音波検査が最も良く行われる検査で、股関節を詳細に観察するために使用されます。
治療
股関節が柔らかい乳児期にみつかった場合は、股関節を正常な位置に保つように、生活指導で治していきます。それでも改善がみられない場合は、乳児にリューメンビューゲルという装具を装着するリーメンビューゲル法や、乳児をベッドに固定して足を引っ張る牽引法によって、正常な股関節の形成を促します。
また、程度によっては、現在痛みなどの症状が出ていなくても、大人になってから症状が出る可能性が高いため、筋力や傷の回復力も考慮して早期の手術を検討することもあります。
予防
- おんぶや抱っこをする際には、乳児の足が開いている状態を保ちます。また、スリング(乳児を包み込むようなタイプの抱っこ紐)は正しく使用しなければ、脱臼の原因になるので気をつけましょう。
- 巻くタイプのおむつやゆとりのない服は、股関節を締め付けるため脱臼しやすくなります。おむつはサイズの合ったものを締め付けないように当てましょう。
- サイズの合っていない小さい衣類や重ね着は股関節を圧迫してしまいます。ゆったりとした柔らかい素材の衣服を選ぶようにしましょう。
当クリニックでは、患者様の症状や治療に合わせた疾患別パンフレットをご用意しています。
下記リンクからもダウンロードできますので、ご活用ください。