妊婦・産後の腰痛の原因と対策|ストレッチだけでは改善しない?理学療法士によるリハビリを解説【保険適応】

妊婦さんや産後の女性に起こる腰痛は珍しいものではありません。
妊娠・出産ではホルモンの影響で骨盤周囲の靭帯が緩み、お腹が大きくなることで姿勢も変化します。さらに出産後は、抱っこや授乳、おむつ交換など育児による負担が加わるため、腰痛が長引くことがあります。腰痛は妊産婦の30~90%の女性が経験し、2年後でも約2割で症状が続くことが報告されています。
産前産後に腰痛が起こる原因
妊娠・出産では身体に大きな変化が起こります。
主な原因として
- 妊娠ホルモン(リラキシン)の影響で骨盤が不安定になる
- お腹が大きくなり姿勢が変化する
- 腹筋や骨盤底筋が伸ばされ、体幹が弱くなる
- 出産後も骨盤周囲の靭帯や筋肉が完全には戻っていない
- 抱っこ・授乳・おむつ交換など育児による負担が増える
などが挙げられます。
つまり、「骨盤がゆがんだから」だけではなく、姿勢・筋力・身体の使い方が複雑に関係しているのです。
妊娠すると「リラキシン」というホルモンが分泌されます。リラキシンは出産時の産道を確保し、赤ちゃんが生まれやすくするために、仙腸関節と恥骨結合を緩める作用があります。
リラキシンは妊娠初期から分泌され、分娩に向けて分泌量が増えていきます。このホルモンの影響は産後数か月続くこともあり、人によってその期間や影響度は異なります。

産前産後の腰痛はストレッチやマッサージで改善する?
妊婦さんや産後の腰痛に対してストレッチやマッサージを行うことは、筋肉の緊張を和らげ、痛みの軽減につながる場合があります。しかし、腰痛の原因が骨盤や体幹の安定性の低下、姿勢や身体の使い方にある場合は、ストレッチやマッサージだけでは十分な改善が得られないことがあります。
研究では、ストレッチやマッサージに加えて、体幹や骨盤を安定させる運動や、身体の使い方を改善するモーターコントロールトレーニングを組み合わせた理学療法が有効とされています。妊娠中は症状や妊娠週数に応じた安全な運動を、産後は身体の回復状況に合わせて段階的に運動療法を行うことが重要です。
また、自己流で無理なストレッチやマッサージを行ったり、身体の状態を十分に評価せずに強い施術を受けたりすると、かえって痛みが悪化することがあります。妊娠中や産後は、ホルモンの影響で骨盤周囲の靭帯や関節が緩みやすく、身体の状態は時期によって大きく変化します。そのため、同じ方法がすべての方に適しているわけではありません。
そのため、腰痛の原因を正しく評価したうえで、一人ひとりの身体の状態や妊娠・産後の時期に合わせた運動を提案できる専門資格を持った理学療法士によるリハビリを受けることをおすすめします

産前産後の腰痛に骨盤ベルトは効果はある?
骨盤ベルトは、妊娠中から産後の骨盤を適度にサポートし、動作時の痛みを軽減する効果が期待できます。特に、骨盤周囲の不安定感や恥骨・仙腸関節周囲の痛みがある方では、日常生活が楽になる場合があります。
一方で、骨盤ベルトだけで腰痛の原因を根本的に改善できるわけではありません。
妊娠中や産後の腰痛は、骨盤の不安定性だけでなく、
- 体幹や骨盤周囲の筋力低下
- 姿勢の変化
- 身体の使い方(動作のクセ)
- 抱っこや授乳など育児による負担
など、さまざまな要因が重なって起こります。
そのため、研究では骨盤ベルトによるサポートに加えて、理学療法士による運動療法や身体の使い方の指導を組み合わせることが推奨されています。
また、骨盤ベルトは締める位置や強さ、使用するタイミングが適切でないと十分な効果が得られないこともあります。 自己判断だけで使用するのではなく、自分の症状に合った使い方について医師や理学療法士に相談すると安心です。
妊娠中・授乳中に湿布は使っていい?
湿布は、腰痛による痛みや炎症を一時的に和らげる効果が期待できます。しかし、腰痛の原因そのものを改善する治療ではありません。
妊娠中(妊婦)の方は自己判断で湿布を使用しないようにしましょう
市販や処方される湿布の中には、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が含まれているものがあります。これらの成分は皮膚から吸収されるため、妊娠中、特に妊娠後期では胎児への影響が懸念され、使用できない湿布があります。
そのため、妊娠中に腰痛がある場合は、市販の湿布を自己判断で使用せず、必ず産婦人科や整形外科の医師に相談してください。

授乳中は使用できることが多いですが、根本的な改善にはなりません
授乳中は使用できる湿布も多くありますが、薬剤の種類によって注意が必要な場合もあります。使用前には医師や薬剤師に確認することをおすすめします。
また、湿布で一時的に痛みが和らいでも、骨盤や体幹の筋力低下、姿勢の変化、身体の使い方などが原因となっている腰痛は、湿布だけでは根本的な改善は期待できません。
産前産後の腰痛は保険適応で治療可能です
整形外科で診察を受け、医師が運動療法(リハビリ)が必要と判断した場合は、健康保険を利用して理学療法士によるリハビリを受けられる場合があります。
一方で、産前・産後リハビリには、妊娠・出産に伴う身体の変化や運動療法についての専門的な知識と経験が求められます。 そのため、医療機関によっては対応できる理学療法士が在籍しておらず、十分なリハビリを受けることが難しい場合もあります。
産前・産後の腰痛の原因は、人によってさまざまです。
理学療法士は、
- 姿勢
- 骨盤の安定性
- 腹筋・骨盤底筋の機能
- 抱っこや授乳などの育児動作
- 筋力や柔軟性
などを総合的に評価し、一人ひとりの身体の状態に合わせたリハビリを行います。
歩けないほど痛いときは病院を受診してください
産前・産後の腰痛は多くの方が経験する症状ですので、「そのうち治るだろう」と考え、病院を受診せずに我慢してしまう方も少なくありません。
しかし、次のような症状がある場合は、産前・産後の腰痛以外の病気が隠れている可能性があります。
- 歩けないほどの強い腰痛
- 足のしびれや筋力低下がある
- 発熱を伴う腰痛
- 排尿・排便がしにくい、または失禁してしまう
- 転倒やケガのあとから強い痛みが続いている
このような場合は、腰椎椎間板ヘルニア、脊椎感染症、骨折、馬尾症候群など、早期の診断や治療が必要な病気が隠れていることがあります。
「産前・産後だから仕方ない」と自己判断せず、症状が強い場合や気になる症状がある場合は、できるだけ早く整形外科を受診しましょう。
FAQ
- 妊娠中・産後の腰痛があるときは、どんな寝方がおすすめですか?
-
横向きで膝を軽く曲げ、膝の間にクッションや抱き枕を挟む寝方がおすすめです。
妊娠中はお腹が大きくなるにつれて腰への負担が増えるため、横向き(シムス位)で寝ると腰や骨盤への負担を軽減しやすくなります。産後も、横向きで膝の間にクッションを挟むことで骨盤のねじれを抑え、腰への負担を減らすことができます。
一方で、「この寝方なら必ず良い」というものはなく、腰痛の原因によって楽な姿勢は異なります。朝起きたときに痛みが強い、寝返りで痛みが出るなどの場合は、寝具や寝方だけでなく、身体の状態を評価したうえで原因に合わせた治療を受けることをおすすめします。
- 妊娠中・産後の腰痛は自然に治りますか?
-
自然に改善する方もいますが、痛みが続く場合は早めの受診をおすすめします。
妊娠中や産後の腰痛は、ホルモンの影響や姿勢の変化によるものが多く、時間の経過とともに改善する方もいます。しかし、筋力低下や身体の使い方が原因となっている場合は、適切な運動療法を行わないと痛みが長引くことがあります。
- 骨盤ベルトは1日中付けた方がいいですか?
-
一日中つけ続ける必要はありません。
骨盤ベルトは、立ち仕事や抱っこなど腰に負担がかかる場面では有効ですが、長時間頼りすぎると筋肉を使う機会が減ることもあります。使用時間や締め方は、症状や生活スタイルに合わせて調整することが大切です。
- 病院に行ったらレントゲン検査は必ず受けないといけませんか?
-
必ずしもレントゲン検査が必要なわけではありません。
整形外科では、まず医師が症状や経過を詳しくお聞きし、診察を行います。その結果、多くの産前・産後の腰痛では、問診や診察だけで原因をある程度判断できるため、必ずしもレントゲン検査を行うわけではありません。
特に妊娠中は胎児への放射線被ばくを考慮するため、レントゲン検査は必要性を十分に検討したうえで実施します。 症状によってはレントゲンを撮影せずに診断・治療を進めることも少なくありません。
一方で、転倒やケガの後の強い痛み、骨折が疑われる場合、しびれや筋力低下が強い場合などは、原因を正確に調べるためにレントゲンやMRIなどの画像検査をおすすめすることがあります。
まとめ
産前・産後の腰痛は、多くの女性が経験する身近な症状です。しかし、その原因は骨盤のゆがみだけではなく、ホルモンの影響、姿勢の変化、体幹や骨盤底筋の機能低下、身体の使い方、育児による負担などが複雑に関係しています。
ストレッチやマッサージ、骨盤ベルト、湿布は症状を和らげる助けになることがありますが、それだけでは根本的な改善につながらない場合も少なくありません。腰痛の原因を正しく評価し、一人ひとりの身体の状態に合わせた運動療法を行うことが大切です。
また、歩けないほどの強い痛みや足のしびれ・筋力低下、発熱などを伴う場合は、椎間板ヘルニアや感染症などの病気が隠れている可能性もあるため、早めに整形外科を受診しましょう。
当院では、産前・産後リハビリに専門的に取り組む理学療法士が在籍しており、医師の診察のもと、妊娠・出産による身体の変化を踏まえた評価とリハビリを行っています。産前・産後の腰痛でお悩みの方は、一人で我慢せず、お気軽にご相談ください。




院長紹介DOCTOR
枚方大橋つじもと整形外科クリニック
院長 辻本 武尊
私はこれまで約18年間にわたり大学病院や地域の中核病院で整形外科診療に従事し、脊椎疾患を専門としながら、関節疾患やスポーツ障害、骨粗しょう症など幅広い診療を行ってまいりました。脊椎疾患では1,000件以上の執刀、2,000件以上の手術に携わった経験があります。
当院では、専門分野である脊椎疾患はもちろん、整形外科全般の診療に対応しています。患者さま一人ひとりの症状や生活背景に合わせ、治療から予防、リハビリテーションまで総合的な医療を提供いたします。お身体のことでお困りの際は、お気軽にご相談ください。
◆監修:辻本武尊(枚方大橋つじもと整形外科クリニック院長・医学博士)
